2012年5月19日土曜日

「社交不安障害」って薬で治るんじゃなかったっけ?? - 心の由来:「心」についての身もふたもない話 - Yahoo!ブログ


  これまで『見られるだけで身動きとれなくなる パートI〜VI』を通して、社交不安障害(social phobia, social anxiety disorder)の成因と治療についてあれこれ議論してきました。

  でも、そもそも「社交不安障害」という「病名」がこんなにも世の中的に有名になってきたのは、抗うつ薬でもある選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRIsを販売している製薬会社の熱心な啓発活動のおかげでした。

  あまりに製薬会社が熱心に「社交不安障害は選択的セロトニン再取り込み阻害薬で治ります」という雰囲気に宣伝するものだから、一時期は、社交不安障害というのが脳内のある種の物質(セロトニン)の枯渇によって生じている「病気」であって、薬を飲めば魔法のように簡単に治ってしまうのだ、と誤解をする人まで少なからず出たくらいでした。

  なのに、なぜ『見られるだけで身動きとれなくなる』の、これまでの議論では、セロトニン系の話も、抗うつ薬の話も、ほとんど出てこなかったのか? 社交不安障害というやっかいな問題が、時間も労力もかかる「治療」の努力もせずに薬で治ってしまうものであればそれで良いのではないか? という人もいるかもしれません。


昏睡状態のサポートグループルイビルKY

  なぜこれまで薬物療法の話をしなかったのか? という理由は、単純にあまり面白くないからです。 私自身が、この話題はあまり面白く感じなかったという、実にどうでも良いような理由です。

  社交不安障害の成因のところで少し触れたように、社交不安障害は一種の「強迫的なとらわれ」によって維持・強化されているところがあります。 実際に、社交不安障害という「症状」を持っている人は、強迫的な性格傾向や完璧主義が背景にあることも少なくありません。 こうした強迫的な傾向には、セロトニン系が関与していると考えられていることもあって、その辺をマイルドにする選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRIsによって社交不安障害にともなう「とらわれ感」を軽減することができるのは、そしてその結果として社交不安の症状が軽減されていくのは、まあ、当たり前と言えば当たり前なのです。

  実際、選択的セロトニン再取り込み阻害薬を使って治療しようが、曝露療法を主体とした認知行動療法を使って治療しようが、ほぼ同じような治療効果が得られほぼ同じような脳の機能的な変化(人前でスピーチをする課題を与えられた時に「不安の中枢」である扁桃核とその仲間達が過活動になることが減っていく)が得られることが、Furmark先生たちの実験的研究でも示されています。


不安オンライン

  じゃあ、何も時間も労力も体力も恥ずかしさに耐える力も必要とするような、ある意味辛い、ある意味面倒くさい「認知行動療法」などせずに、薬物療法で治していけば良いじゃないか・・・という意見もアリかもしれません。

  ・・・ところが。

  スエーデンのBlomhoff先生たちのグループも、米国のDavidson先生たちのグループも、ともに「社交不安障害」の人たちを対象に、これを(1)曝露療法を主体とする認知行動療法で治療する場合、(2)選択的セロトニン再取り込み阻害薬を使って治療する場合、(3)その両方の組み合わせ療法をする場合、を(4)ただの偽薬(プラセボ)を投与して通院するだけの場合、とで比較してみました。

  その結果、どちらの研究グループでも、プラセボに比較すると、認知行動療法と選択的セロトニン再取り込み阻害薬を使った薬物療法はほぼ同程度に効果的であることが示されました。 選択的セロトニン再取り込み阻害薬を使った薬物療法の方が治療効果の発現は早く、より手っ取り早く症状は改善する傾向があるものの、治療期間の3ヶ月くらいのうちには、両者の差はなくなってしまうのです。


フロリダ州の障害度を食べる

  さらに、スエーデンのBlomhoff先生たちは、その後1年間の追跡調査をしてみました。 すると、曝露療法をした人たちは、その追跡期間の間も症状は改善の一途をたどりました。 ところが、薬物療法だけを受けた人たちは症状の改善が止まってしまいましたし、逆にちょっとした揺れ戻しらしきものさえあるようでした。

  他にも似たような研究結果がいくつかあって、結論として、社交不安障害という「性格の問題」にも似た長く続く問題を解決して行くには、薬物療法だけではどうにもいけないのだろう、ということが示唆されているわけなのです。

  (ただ、選択的セロトニン再取り込み阻害薬を使った薬物療法が有害無益かというと、そんなこともなく、先に述べたように治療効果の発現は早く、手っ取り早い改善が期待できるものではあるのです。 なので、社交不安障害の症状があまりにひどく、仕事上や学業上でかなり切迫したやばいことになっている人に対しては、まずは薬物療法で症状の改善をねらっていく、という発想はアリなのでしょう。)

  まあ、そりゃそうですよね。 「性格の問題」に近い問題が薬を飲むだけで魔法のように治りきってしまうわけもないのです。


※ところで、Blomhoff先生たちの研究は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRIの一つである「サートラリン(日本ではジェイゾロフトという商品名)」を販売している製薬会社ファイザーがスポンサーについていました。結果として、自社製品をある意味否定する研究結果が出てしまったわけですが、それでも文句を言わない(?)ファイザーはある意味あっぱれです。

参考書:

(1) Furmark T, et al.  Common changes in cerebral blood flow in patients with social phobia treated with citalopram or cognitive-behavioral therapy.  Arch Gen Psychiatry. 2002; 59: 425-433.

(2) Blomhoff S, et al.  Randomised controlled genreral practice trial of sertraline, exposure therapy and combined treatment in generalized social phobia.  British Journal of Psychiatry, 2001; 179: 23-30.

(3) Haug TT, et al.  Exposure therapy and sertraline in social phobia: 1 year follow-up of randomised controlled trial.  British Journal of Psychiatry, 2003; 182: 312-328.

(4) Davidson JRT, et al.  Fluoxetine, complehensive cognitive-behavioral therapy and placebo in generalized social phobia.  Arch Gen Psychiatry, 2004; 61: 1005-1013.



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