〔ニューヨーク〕 テキサス大学サウスウェスタン医療センター(テキサス州ダラス)腸管・内分泌外科のEdward H. Livingston教授は「病的肥満に対しては,やはり手術だけが長期間有効な治療法である。病的肥満に対する非手術的な減量努力は,仮に効果があるとしても一過性のものでしかない」とArchives of Surgeryの論評(2007; 142: 919-922)で述べている。
従来研究のデータ不足を是正
Livingston教授は,減量薬のorlistatとsibutramine hydrochlorideは短期間の試験で減量効果が証明されているにすぎず,またrimonabantは米国で未承認であると指摘し,「病的肥満において全面的かつ持続的な減量に成功することが証明されている唯一の治療手段は,肥満手術だけである」と結論している。
それでも肥満手術に対する疑念は残り,それらには「どの手段が最も効果的か」,「どの患者が最も適応となるか」,また「どのようなフォローアップを勧めるべきか」に関する疑問が含まれている。同教授は「肥満手術に対する疑念を晴らすためには何が必要か」という問に対して,「よりよいデータ」と答えている。
同教授は「過去数年間に行われた肥満手術の文献に関する 多数の体系的なレビューのなかで,肥満手術に好意的なエビデンスが反論不可能だと結論したものは 1 つもない」と述べ,文献はエビデンスとして弱いとしている。それでも,ほんの部分的にではあるが,これを是正しようとする動きが見られている。この論評は同誌の肥満手術特集号に掲載された。
この号に掲載された各研究は,肥満手術のリスク,アウトカム,合併症プロフィール,手術により得られた減量に関連する機能的改善,長期にわたるモニタリングの必要性,さまざまな腹腔鏡下バンディング術の同等性に関するエビデンスを提供している。
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高い死亡率は条件による
確かに,肥満手術について最も重要な疑問の 1 つは術後死亡率である。ピッツバーグ大学(ペンシルベニア州ピッツバーグ)疫学のBennet I. Omalu助教授らは,1995〜2004年にペンシルベニア州で行われた肥満手術( 1 万6,683例)に関するデータを同誌(2007; 142: 923-928)に発表している。この研究では,術後 1 年目における死亡率は 1 %であるが,5 年目では 6 %近くになることが判明した。
同助教授らは「冠動脈性心疾患(CHD)が死因の19.2%(76例)を占め,最も多かった」と述べている。最初の30日間の自然死150件のうち,治療に伴う合併症による死亡は38件で,肺塞栓31件(20.7%),CHD 26件(17.3%),セプシス17件(11.3%)が含まれ,特記すべきは最初の30日間の致命率が 1 %未満であったことである。
今回の研究の最も重要な点は,おそらく肥満手術後の死亡率が容認し難いほど高いとして以前に大きく取り上げられた複数の報告が,注意深く患者を選択して適切に行われた手術には当てはまらないだろうという点である。事実,2 型糖尿病の肥満患者に焦点を当てた以前の研究で,肥満手術を受けた患者のフォローアップ死亡率は 1 %/年と予測できるのに対し,手術を受けなかった 2 型糖尿病肥満患者では4.5%/年であったことが判明している〔イーストカロライナ大学(ノースカロライナ州グリーンビル)のKenneth G. MacDonald, Jr.博士らがJournal of Gastrointestinal Surgery(1997; 1: 213-220)に発表した研究を参照〕。
新しいイメージの重量損失は、キングスポート、テネシー州
患者の精神面の研究が必要
Omalu助教授らによる研究のもう 1 つの重要な知見は,自殺がかなり多い死亡のもう 1 つの原因だったことである。Livingston教授は「予想しなかったことは,自殺と薬物過量摂取の頻度であった」と同誌の別の論評(2007; 142: 929)で指摘。「自殺または薬物過量摂取による死亡が30件あり,肥満手術を受けた集団では重大な心理学的問題を考慮すべきことを示唆している。肥満と精神衛生上の障害は重複する部分が大きいが,肥満手術の文献はこの重複部分にほとんど注意を払っていない。Omalu助教授らが認めた自殺/薬物過量摂取による死亡率の高さは,肥満手術患者の行動面についてより多くの研究を要することを示唆している」と述べている。
肥満手術に関する文献で考慮すべきもう 1 つの点は,米国でこの手術を受けた人の多くが,障害があるかあるいは困窮している,またはその両方だったことである。このようなきわめてリスクの高い患者は,一方で死亡率が高く,他方では減量により得るものが大きいという。このことは,死亡率のデータは患者の選択に関連して解釈すべきであることも意味している。
肥満手術に関連して死亡率が高いとした以前の報告の一部では,医師の手術に関する経験不足も 1 つの要因,と同教授は指摘している。
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併存症状の減少で便益
バージニア・メーソン医療センター(ワシントン州シアトル)一般・血管・胸部外科のAmy J. Wagner博士らは,患者の選択と肥満手術後にこれらの患者に起こる事象に関して,胃バイパス術が病的肥満患者の職場への復帰に大きく貢献していることを見出した。同博士らは,手術を受けなかった対照群(16例)のわずか 6%と比べて,Roux-en-Y胃バイパス術(RYGB)を受けた病的肥満患者(38例)の37%が職場に復帰したことを同誌(2007; 142: 935-940)に報告している。
同博士らは「フォローアップ時に併存症状の減少度が平均より大きかった患者は,併存症状の改善がなかった患者に比べて職場に復帰する見込みが高かった(P=0.001)。健康関連のQOLは術前にはきわめて不良であったが,術後にはすべての領域で改善した」と述べている。
オレゴン保健科学大学(OHSU,オレゴン州ポートランド)外科のBruce M. Wolfe教授は,Wagner博士らの研究に対する同誌の論評(2007; 142: 941)で「肥満と機能障害は互いの原因として寄与し合う可能性がある。例えば,身体活動を制限する機能障害は,肥満の主因なのかもしれない」と指摘している。
さらにWolfe教授は,RYGBに伴う肥満関連併存疾患の治癒率が予想より低い点についても意見を述べている。特に,Wagner博士らの研究では,糖尿病の治癒率はわずか41%(17例中 7 例)であることが判明したが,これは糖尿病の治癒率80%以上とした以前の報告と対照的である。一方,Wolfe教授は,Wagner博士らが扱った患者がRYGBを受ける多くの患者の典型ではない比較的重度の肥満〔平均body mass index(BMI)58〕であったことを指摘している。
術後内視鏡検査も可能
同誌の同号発表の各研究は,ほかにも肥満手術の数多くの面を取り上げている。例えば,不十分なエビデンスに基づいて,RYGB後の患者は遠位胃あるいは十二指腸の内視鏡検査をもう受けられなくなると非難された。しかし,サンパウロ大学(ブラジル・サンパウロ)GI内視鏡部のRogerio Kuga博士らは,同誌(2007; 142: 942-946)で,これらの患者の上部胃腸内視鏡検査を可能にする技術について述べている。また,920ページではLivingston教授が同様の結果が達成できる別の方法について述べている。
ペンシルベニア病院(ペンシルベニア州フィラデルフィア)外科のStephen Kolakowski, Jr.博士らによる,RYGBを受けた連続417例の研究(2007; 142: 930-934)では,術後の一般的な胃透視は無症候の患者では不要であることが判明した。患者の全体的な臨床症状を注意深く評価すれば,それだけで関連する異常を識別できるとしている。
また,南フロリダ大学保健科学センター(フロリダ州タンパ)外科のTaghreed Almahmeed博士らがRYGB後の吻合部漏洩罹患連続840例のデータを前向きに収集した研究(2007; 142: 954-957)では,合計36例(4.3%)が漏洩を発症した。同博士らは,緊密で積極的なモニタリングと積極的な介入を推奨している。
術前減量も有効か
ブラウン大学(ロードアイランド州プロビデンス)外科のSyed Husain博士らによる腹腔鏡RYGB後の小腸閉塞の研究(2007; 142: 988-993)では,画像研究の結果が不十分であることが判明した。したがって,迅速な診断には低閾値による臨床的な疑いと,変化した身体組織が画像所見をどのように変えるかに関する堅固な知識の両方が必要だとしている。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(サンフランシスコ)外科のGuilherme M. Campos助教授らによる胃バイパス術後合併症の前向きコホート研究(2007; 142: 969-975)では,18.3%で合併症があったものの,その95%が継続的な障害に結び付くことなく治療されたことが判明した。この研究では肥満手術合併症の分類法も紹介している。
肥満手術を行う患者の選択に関連して,ペンシルベニア州立Geisinger医療センター(ペンシルベニア州ダンビル)栄養学のChristopher D. Still特任助教授らは,術前に過剰体重の5 〜10%の減量を達成できる病的肥満の候補者は術後アウトカムがよいとの知見を報告している(2007; 142: 994-998)。これに対して,Livingston教授は「術前予測の減量に成功することは,減量術後の成功に関する患者のコンプライアンスと可能性の尺度となりうるだろうか」と論評で疑問を投じている。
また,サンパウロ大学Hospital das Clinicas消化器病学のJoel Faintuch教授らによる研究(2007; 142: 962-968)は,RYGB後の胃粘膜の表現型と遺伝型の変化を探っている。
なお,RYGBの技術に関する実験データの検討と,腹腔鏡下調節性胃バンディングに用いられる 2 つの異なる器具の比較も紹介されている。
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