煎じて飲めば期待できるが、副作用も
鎌田 アポトーシス(細胞の自殺)を誘導するといわれる抗がんサプリメントの中に、紅豆杉がありますが、これは抗がん剤のタキソールが作られる元になったイチイの木と同種のものですか?
福田 おっしゃるとおり1960年代にイチイの木の成分から抗がん作用のある物質が見つかり、それがスタートとなって抗がん剤のタキソールの開発につながりました。紅豆杉も同じイチイ科に属する樹木で、タキソール系のアルカロイドが含まれていますから、煎じて飲めば抗がん活性はある程度期待できると思います。しかし、紅豆杉の宣伝の中で「紅豆杉はがん細胞には効果があるが正常細胞にはまったく影響しない」としているのは明らかに間違いです。抗がん作用があるだけの量を飲めば、タキソールと同じような副作用が出る可能性はあるはずです。
鎌田 高麗人参は1つ星半ですね。
福田 高麗人参に含まれる代表的成分はサポニンです。サポニン自体はいろんな植物に含まれていますが、人参サポニンにはがん細胞を殺し、転移を抑制する働きがあることが報告されています。また、サポニンには抗酸化作用もあり、発がん物質による遺伝子の変異を抑える作用を持つ人参サポニンも報告されています。韓国などでは、疫学的調査や臨床の報告もあります。私としては2つ星にしてもいいんですが、使用法によっては注意が必要で、がん細胞が活発に増殖しているとき、高麗人参だけを大量に使うとがん細胞も一緒に活性化される恐れがあるなど、問題点もあります。
2つ星は大豆、DHA、EPA
鎌田 次に、大豆は2つ星ですが、大豆イソフラボンになると1つ星半です。
ヘルスケアの上位10州
福田 大豆自体のがん予防効果は、疫学的にもかなり証明がされていて、2つ星の価値はあるんです。これに対して大豆イソフラボンについては、動物実験レベルでは血管新生阻害やがん細胞にアポトーシスを誘導するなど、いろいろ報告がありますが、本当に人間で効果があるかは、まだ未定です。また、大豆イソフラボンについて、ひとつ指摘しておきたいのは、大豆イソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンに似た働きを持っていることです。乳がんの多くはエストロゲンによって増殖が促進されるため、乳がんを発症した人が大豆エストロゲンを摂取した場合、再発を促進する可能性が指摘されています。乳がん以外にも、子宮体がんや子宮筋腫など、エストロゲン依存性の病気の場合は、大豆イソフラボンなどエストロ ゲン様成分で構成されたサプリメントは、摂らないほうが無難といえます。
鎌田 抗酸化性ビタミンのC、E、あるいはコエンザイムQ10は1つ星半です。
福田 ぼくの評価では2つ星にはできないし、これを飲んでいればがんを予防できるといえるまでのデータはありません。一般論からいえば、体の抗酸化力を高めるために飲む、というのであれば勧められますが……。コエンザイムQ10にしても、がん予防効果を示唆する報告はありますが、過大な期待は持てません。
鎌田 ポリフェノール類は植物に含まれるフラボノイドや茶カテキン、イチョウ葉エキスなどがありますが、これも1つ星ですね。
福田 いずれも動物実験などで抗腫瘍効果が報告されていますが、人間では症例報告がある程度で、人体での抗腫瘍効果が証明されているわけではありません。
鎌田 DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)などのω3不飽和脂肪酸は2つ星です。
野菜を食べることの利点は何ですか
福田 ω6系の不飽和脂肪酸は肉類に多く、ω3は魚に多い不飽和脂肪酸です。ω3についての抗がん効果は結構報告されていて、動物実験だけでなく、疫学的調査の報告も数多くあります。厳密な臨床試験ではありませんが、人に効きそうなデータはそろっている感じです。体内酵素で、炎症細胞やがん細胞などに多く存在するものにCOX(シクロオキシナーゼ)-2があります。炎症反応や血管新生、発がんなどに関与しているとされ、COX-2が過剰に発現しているがんとして、大腸がん、乳がん、胃がん、食道がん、肺がんなどが報告されています。ω3不飽和脂肪酸には、このCOX-2の阻害作用があります。プロスタグランジンE2(PGE2)という生理活性物質が増えすぎるとがん化しやすく、進行も速まることがわかっていますが、ω3不飽和脂� ��酸はPGE2が体内で増えるのを抑える働きがあります。
がんの縮小よりも、いかに延命するかを重視
鎌田 ところで、ずっとサプリメントのことをうかがってきましたが、先生は再発がんの患者さんも多く診ていて、漢方やサプリメントだけでなく、西洋医学も取り入れた非常に柔軟な考え方で診療を行っていますね。その中のひとつに、サリドマイドとか、COX-2を阻害する非ステロイド性抗炎症剤のセレブレックス(一般名セレコキシブ)があり、あるいは抗マラリア薬のアルテミシニン誘導体をうまく使ったりもしています。
それはどのように使用されていますか?
福田 私がやっているのは、体にやさしい薬を使うとか、漢方にしても、数多くある生薬の中から数種類から数10種類(通常は6〜20種類程度)の生薬を選び出して組み合わせて、その人に合ったオーダーメードの薬を処方することです。とくに漢方をやっていると解決志向になりますから、西洋医学では認められないものでも、「使って効いた」という例があれば、たとえ再現性はなくても使うことがあります。サリドマイドについても、脳腫瘍など、いくつかのがんの臨床試験で効果が認められています。そこで、ほかに選択肢がないというとき、使ってみると、たしかに効果があるんです。私の場合、膵臓がんの末期の患者さんにサリドマイドを用いて、延命効果が出たケースがあります。小細胞肺がんの末期の患者さんにも� �効なケースがありましたが、どのくらいの延命効果かはケースバイケース。全身に転移している乳がんの患者さんにCOX-2阻害剤を使ったりもしていますが、かなり進行していてあと数カ月と思っていた人で、3年以上生き延びている方もいらっしゃいます。
サリドマイドもCOX-2阻害剤も、私はそれを医師の個人輸入で入手し、処方薬として使っています。やはり漢方だけでは限界を感じるんですね。たとえ日本では未認可の薬でも、医学的に間違いがないのなら積極的に使っています。
鎌田 マラリアの特効薬であるアルテミシニン誘導体も使ってらっしゃいますが、どんながんに効くとお考えですか?
福田 私が使っているのは乳がんがいちばん多いですね。抗がん活性があるという論文がいくつかありますが、劇的に効くというわけではないが、実感として、どうも効いているみたいだ、という感触です。
鎌田 どんな作用をするんでしょうか?
福田 マラリア原虫は赤血球に寄生し、ヘモグロビンからの鉄を体内に蓄積しています。そこで、体内の鉄と反応してフリーラジカルを発生してマラリア原虫を殺してしまおうというのがアルテミシニン誘導体です。がん細胞も鉄を多く含んでいまして、鉄と反応してがんを殺すというメカニズムが報告されています。アメリカでは10数社がサプリメントとして販売しているようです。
鎌田 ほかのサプリメントはいかがですか?
福田 IP6とイノシトールの組み合わせは、ナチュラルキラー細胞活性を高めたり、がん細胞の増殖を抑える効果が報告されています。IP6とイノシトールを4対1で含むものがとくに抗がん作用が強いと報告されており、日本でもサプリメントとして発売されています。
鎌田 そのようなサプリメントを、患者さんにどういうふうに使い分けているのですか?
福田 ひとつはがんの種類によって使い分けていますし、世界の研究報告も参考にして、患者さんの状況を見ながら使い分けています。それと、基本的に毒性があまりないものを使うことにしています。がんの縮小にはあまりこだわらなくて、いかに延命につなげるかを重視します。ほかの医者から匙を投げられたような人でも、がんが大きくならなければかなり延命できるわけですからね。悪液質を改善するだけでも大きな意味があると思っています。これが体をどんどん消耗させ、死期を早めることになるわけですから。
漢方にしてもほかのサプリメントにしても、優先順位としては標準的治療が先であり、それを補うための代替医療という位置づけです。ただし、標準的治療で匙をなげられた患者さんの「まだあきらめたくない」という気持ちをサポートする手段として、代替医療は重要な役割を担っていると思います。
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